…………貴族って、無茶なことするんだね……。
おれに何ができるかは、わからないけれど、応援するから。
リリアーナさん…あっ；

「タイニーの友達、結婚するんだってぇ〜〜」
「タイニーより若い子？　すご〜い」
「せーりゃくけっこんってな〜に？」
「タイニーまだなのぉ？」
「カノジョかわいそ〜〜」
「最近の男は責任取るのを嫌がるって聞きますけれどね」
「意気地なし〜」
「甲斐性なし〜」

（結婚話にテンション上がった教え子たちを宥めようと四苦八苦しつつ退場）

タイニー達の後姿を見送りながら
「なんだか最近このパターンをよく見かけるような気がする。」
人差し指でぽりぽりと頭をかきながらリムルは苦笑する。
「でも、どんな形であれ、人と関わりを持つようになってくれてるタイニーを見るのはうれしいんだよね。」
ピップはそういうリムルの顔を覗き込みながら問いかけた。
「その割に寂しそうな顔してんのは、どういうわけなんだ？」
「ん〜、そういう風に見える？　最近二人っきりで過ごす時間ってなかなか作れないからね〜。そういう意味ではちょっとね。…それより今はリリアーナのことだよ！！　何か方法を考えないと、むぅ〜どうしてやろうか？」
「先に言っとくが、バカボンに談判なんてやめてくれよ。」
リムルは人差し指を横に振りながら、
「ちっちっちっ。ピップ、あんた私に対する認識が間違ってるわよ、私だってねぇ、社会人になって少しは大人の対応を身に着けたんだから。…けどまぁ、蹴りの一発でも入れてやりたいのはやまやまなんだけどさ。」
「オレの認識が甘かったってことだろ、それ。イヤホント、おさえてくれよ？！」


それから数日後

「これで最後だよ〜。」籠を抱えながら彼女が言う。籠には洗い終わった洗濯物が山盛りになっている。庭の木々の間にはロープが張られ、リネン類が風にはためいている。小さい子供たちは、それを迷路に見立て、バタバタと走り回っている。
「こら〜、汚れた手で触っちゃだめだよ。」
彼女がタオルをぱんぱんとはたきながら声をかけている。
「「「はーい」」」
元気な返事はいいけれど、いつものパターンだとシーツを引っかけて地面に落っことしてしまったり、いつのまにか小さな手形のような泥汚れがついていたりってことになる。
「最近ずっと雨だったから、大物の洗濯物がたまりっ放しだったもんね。いやぁ、シーツもこれだけ並んでると壮観だね。」
「そう、だね。布団も、干したし、きっと今夜は気持ちよく眠れる。」
それにしても、空の青とリネンの白のコントラストがまぶしい。
「ね、これ終わったら、お茶する？」
この施設では最近、ハーブを栽培、加工して町のお店へ卸している。その作業過程でどうしても商品にするには難ありといったモノがでてしまう。それらはこの施設のみんなの普段使いになっていたりする。彼女はそれのことを言っているのだとすぐにわかった。
「うん。お願いしても、いい、かな。」

「ふぅ〜。なんか幸せって感じ。クズ茶でもこれくらいリラックス効果があるんだからさぁ、絶対もっと売れると思うんだよねぇ、がんばってもっともっと販路を拡大しなくっちゃ。」
彼女がこういう話をしているときの瞳は輝いていてとても生き生きしている。それをおれはとても好ましいと思う。だけど、自分が甘えているだけで、彼女に何も返せていないように感じてしまう時がある。ふと、数日前に皆から言われた言葉が思い出された。


「最近の男は責任取るのを嫌がるって聞きますけれどね」
「意気地なし〜」
「甲斐性なし〜」


「…こんなんじゃ責任をとるなんて。」
「責任をとるって何のこと？」
いつの間にか、テーブルの向こう側から彼女が身を乗り出しておれの顔を覗き込んでいる。不意打ちのその近さに一気に顔の熱が上がるのを感じたおれは、
「あ、…なんでもない、なんでもないから。」
無理矢理に視線をそらし、横を向いた。
「ねぇ、もしかして私なんかやらかした？　タイニー怒ってる？」
心配そうな彼女の声に
「ちがう、そんなんじゃ、ない。……この間、皆に言われたんだ。その、け、結婚、の事。まだなのか、とか責任とか。」
彼女が答えるまでに一瞬、間が開いた。
「…タイニーはみんなに言われたから気にしてるの？」
ちょっと拗ねたような彼女の言い方におれはあわててしまう。
「っ、そういう訳じゃない、けど。」
「あのね、タイニー、私たち結婚うんぬんの前にいろいろ段階を踏まないといけないことがあると思わない？」
彼女にしては珍しい、謎かけのような言い方だ。
「？いろいろ」
「あー、もう、なんで私が。だから〜、例えば〜、……キスとか。」
やっとでおれは気が付いた、彼女の言いたいこと。
「………」
彼女の顔が赤い、おれの顔もきっと真っ赤になっているだろう、こんなにほっぺたが熱いのだから。
「あ、だから、今したいとかそんなんじゃなくって、ヤダ私なに口走ってんの。えーっとだからその……。」照れ隠しからか、彼女は力いっぱいおれの背中をたたいてくる。
「リムル、い、痛いよ、落ち着いて」

「どうしたの〜〜」
「あ〜、ワタシ知ってる、こういうのカテイナイボウリョクっていうんだよ」
「こらこら、結婚もしていないのに、家庭内暴力とはいいません。そうですね、強いて言うなら、痴話げんか、でしょうか？」
「ホラ、オレら邪魔なんだって。」
「ごゆっくりどうぞ〜〜」

（年かさの子が小さい子たちを連れて退場）

微妙にニヤニヤ笑われているような気がするのは、きっと気のせいではない、と思う。
二人してひとしきり笑った後、彼女は小首をかしげてこう言った。
「キスも、結婚も、きっと自然にそうなるタイミングっていうのが来ると思うの、だから、今は、焦る必要も、悩む必要もないと思う。」
「…そう、なのかな？」
「そうだよ。」

「まったく、何やってんだか、まどろっこしいったらないぜ。」
「あっ、ピップだ〜、リムルねぇちゃんからこんなに離れて大丈夫なの？」
「いや、これぐらいがギリかな、つーか、こそばゆくってあんなところには居られねーって」
「ん〜、らぶらぶ？」
「ちょっとちがうよ、んと、ピュアピュア？」
「あ、そんな感じかも」

「ねぇ、あの子たち、またシーツの陰からのぞいてるよ。」くすくすと笑う彼女。

そのタイミングはいつやってくるのだろう？待っているだけじゃなく、その未来へ向かって歩き出していきたいと思う。おれは、彼女の笑顔に背中を押された気がした。


『ＰＯ』リムルさんのＰＬさんより、プラリアをいただきました〜。
優しい光景に、心が和みますね(^^)
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