最初に噂話を仕入れてきたサリアはといえば、まずは男爵家がサリアたちの抗議を無視できなくなる実力を示すため、少しでも多くの魔法の力を結集すべく、アルベルンに残ったクラスメイトに声をかけていた。 「ごめんね、フェイ、レミリアも。せっかくの休みに」 サリアが申し訳なさそうに言うと、フェイの肩に座るレミリアは首を振った。 「お気になさらず。私も話を聞いて酷いと思いましたし、力になれることがあるなら喜んで協力させていただきます」 フェイも己のフェロウの言葉に大きくうなずき、サリアに満面の笑みを向けた。 「そういうこと。それに俺は、サリアとデートできると思えばむしろ嬉しいからさ〜」 「でででデートって・・・っ」 「落ち着いてサリアちゃん、いまさら照れることでもないでしょ？」 ぼん、とサリアが顔を赤くすると、ミネアが呆れたようにツッコむ。 「まして否定なんかしたら極悪人よ？」 「いいよ〜、ミネア、照れてるサリアも可愛いし〜」 フェイは笑みを崩さず、さりげなくサリアの手を取った。 「実は今日、俺のほうから誘おうと思ってたんだよね。話したいこともあってさ。用事を済ませたら食事、行こう？」 「え、と・・・うん」 頬を染めたまま、サリアはフェイの手を握り返した。 ふたりが向かったのは、デブロットの家だった。魔法使いの価値を下げるような男爵家を見過ごすことはないだろうとの予想に反し、デブロットは慎重な態度を見せた。 「その噂話とやらが本当だという証拠はあるまい」 サリアから一通りの事情を聞いても、平然とそう答える。 「じゃあ、デブロットはリリアーナが嘘を言ってるって言うわけ〜？」 「当事者の片方からしか事情を聞いていないのは、公平とは言えんというだけのこと。正しい判断には公平な視点が欠かせぬであろう」 「それはそうだけど・・・」 理路整然と語るデブロットに、反論できずサリアが唇をとがらせたところへ、さらなる来客が告げられた。 「なんだ、サリアたちも来てたのかい」 メイドに案内されて現れたのはアヴァだった。 「アヴァじゃない。どうしたの？」 「どうしたのって、用件は同じだと思うけどねえ」 サリアとフェイに笑いかけ、アヴァはデブロットの方を向く。 「同じ用件というなら、今し方情報が足りぬと伝えたところだ」 肩をすくめるデブロットに、アヴァはサリアたちの方へ視線を送る。フェイが簡潔にまとめて説明すると、アヴァは大きくうなずいた。 「なるほどね。相変わらず理屈っぽいやつだよ。でもあたしの持ってきた最新情報を聞けば、多少はその気になるんじゃないかねぇ」 「最新情報？」 「リバルトさんから届きたてホヤホヤ、リリアーナさんに無体を強いてるカルデローネ男爵家についての追加情報ですぜ！」 アルバトロスが丸めた羊皮紙を振りかざす。それを開いて示しつつアヴァの語った男爵家の実状は、想像を超えるものだった。領地経営のずさんさ、身分を振りかざしての根拠無く無理難題を通そうとする態度。凶行にこそ及んでおらず処分は免れているが、メルテの社交界では眉をひそめるものも多いらしい。さすがのデブロットも反論できず唸るしかないほど、具体的な例に事欠かない有様だった。 アヴァの説明を聞いたデブロットはしばし目をつぶっていたが、やがて目を開けて立ち上がった。 「よかろう。裏付けも取っているというのであれば、協力するにやぶさかではない。元級友を苦しめるのが本意ではないからな」 「じゃあ・・・！」 「さほどの量ではないが、これを持っていくがいい。マルシェ！」 「イエス、マスター。こちらに」 フェロウが引き出しから小さな袋を取り出す。中には数個のプリズムが入っていた。 「恩に着るよ」 アヴァはそう言って袋を受け取った。 ひとつひとつは小さく弱い力でも、まとめれば強くなれる。 武器は今、それだけなのだ。
(to be continued・・・)
ここまでで、第１回の結果です。 ひとまず区切りの付くところまで来られました・・・やれやれ。 とはいえ、話はまだ終わってませんので、頑張ります(汗) プリズム・オリジン トップへ インデックスへ |