（広い研究室の天井から「技術科・本部」のプレート下がっている。その下では白衣や作業着の隊員たちが立ち働いている）
ここは、総司令部の技術科本部です。案内してくださるのは総司令部広報のクラリッサ・メイフィールド大尉です。よろしくお願いします。
――― こちらこそ、よろしくお願いいたします。
大尉の着ている制服は、スラックスではなくスカートなのですね。
――― はい。デスクワークを主とする女性隊員は、スラックスの代わりに膝上丈のタイトスカートを選択することが出来ます。これは共布のくるみボタン三つで留める巻きスカートタイプで、立ち仕事や前線での行動には向かないため、着用しているのは本部や惑星の管理事務所勤務の事務官だけだと思われます。
というと、この技術科でもやはりあまり見かけないのでしょうか。
――― おそらくそうだと思います。技術科も、その業務によって服装は大きく異なりますので。
では、そのあたりの違いも含め、説明をお願いいたします。
（組み合わされた歯車を図案化した技術科徽章が大映しになり、左寄りに引いていく。オーバーラップして、気難しげな顔の７０才近い男性が映る。テロップ「技術本部長ミシュアル・アル・イェーリン大将」。さらに重なるように下から別画面が立ち上がり、図を示す。「技術科」の枠から六つに線が分かれ、それぞれの下に「整備」「工作」「通信」「機関」「造船」「衛生」の文字が現れる）
――― 技術科は以上のように大きく六つの部門に分かれています。専門的な知識と技術を要するという点では、他の科よりも部門ごとの独立性が高いと言えるかもしれません。それをまとめあげる本部長は、前任者の指名によって選ばれます。
指名制となると派閥の形成が懸念されますが、なぜ選挙ではなく指名で決定されるのでしょうか？
――― 技術的な進歩には、長期的な計画が必要になります。そのため、運営の基本方針が大きく変わることの少ないよう、最も混乱のない形で引継ぎを行なうことが望ましいとされているからだそうです。
前任者が、自分の拓いた道を受け継いで伸ばしていく能力を持つ後任を指名する、というわけですね。では、詳しい部門ごとの業務を見ていくことにしましょう。
【 技術科・整備部門 】
（バトルウイングのハンガー。停められた戦闘機の下から、油まみれの作業服姿の隊員が顔を出す。コクピットのパイロットとやりとりをして、再び工具を手に戦闘機の下へ）
整備部門は、宇宙軍の保有する兵器や施設の安全管理を行なう部門です。
補修や調整といった、メカニック的な業務を担当します。
作業服に階級章のようなものが見えましたが。
――― 整備士たちの着ている服は、軍が正式に採用した作業服です。ダークグリーンのつなぎで、胸と腰にそれぞれ一対の大ぶりのポケットが付き、作業工具を入れるポーチを下げるためのベルトをします。左胸のポケットには、所属部隊を示すワッペンと階級章を付ける決まりになっています。
武器や機器のほかに、船舶や建物なども整備対象となるとうかがいましたが。
――― はい。個人携帯用の端末から空母まで、宇宙軍の装備ほとんどが整備部門の隊員たちの手で正常を保たれているのです。
ほとんど、ということは、担当外となるものもあるのですか？
――― 宇宙船などのエンジンについては、整備部門ではなく、同じ技術科の機関部門が担当となります。
それ以外のエンジン、つまりバイクや車は、整備部門が手がけるのですね？
――― 機関部門でも行ないますが、配置されていない部隊もありますので、主に整備部門が担当することになります。
（ハンディパソコンをバトルアームのコクピットに繋ぎ、なにやら打ち込んでいる隊員。入力を済ませて合図をすると、パイロットがバトルアームを動かし、頷いて合図を返す）
――― 現在の宇宙軍で採用されている装備のほとんどが、人工知能によって使用効率を上げています。それらのプログラムを、最良の効果を上げられるよう調整するのも、整備部門の重要な業務の一つです。電脳調律士と呼ばれるその技術者の中でも、戦闘兵器や戦艦に搭載される電子頭脳の調整を行なうことの出来る調教士は現在、非常に数が少なく、技術学校での育成に力が入れられています。
電子頭脳には隊員の命を預けるわけですから、優秀な電脳調律士の存在は非常に重要となりますね。
【 技術科・工作部門 】
（惑星上空を飛ぶ小型航空機のコクピット。複数のモニターに地形データが次々と映し出されている。中の一つの、地上の映像を捉えるカメラがダムのような建物を写してストップモーション）
工作部門は、戦力投入前の偵察・情報収集を主な業務としています。
テロ対策や爆発物処理、有害化学剤、放射能汚染等の除去も行ないます。
――― 「工作」という部門名から、スパイのような非合法なイメージをもたれがちですが、実際は潜入捜査のようなことは行ないません。
映像では、現地情報をデータとして集めている様子でしたが・・・。
――― はい。作戦に必要な地形などのデータを偵察によって収集することが主な任務となります。その他に、人体に有害な物質による汚染が生じた際の除染活動も行ないます。まれに、警護などの任務が発生する場合もあります。
警備は機動科・砲術部門の担当では？
――― 警備隊は建物等の場所に対する警戒を担当しています。対する警護隊は個人を対象とした、言ってみればボディーガード的な役割となります。
そこがテロ対策・・・誘拐や暗殺を防ぐことになるわけですね。
【 技術科・通信部門 】
（宇宙船艦橋。インカムをつけた隊員がモニターを見ながら手元のキーボードを操作している。解読された暗号文をプリントアウトし、立ち上がる）
通信部門は、部隊間の指揮連絡経路の確保と通信システムの運用を行ないます。
また、レーダーを利用した気象予測、警戒監視も行ないます。
通信部門、と言っても、その業務は交信だけではないのですね。
――― はい。レーダーによる探知は、惑星上の気象予測だけではなく、宇宙空間においても宇宙線の濃度測定や磁気嵐の予測など、多くの役割を担っています。さらに戦時においては索敵に重要な役割を果たします。
外部に繋がるラインがあるということは、そこからの進入もまた警戒しなくてはならないと思いますが・・・。
――― もちろん、ハッキング・クラッキングといった悪質な行為に対応する、電子戦技術を持つ隊員もおります。
目に見えない、もう一つの前線がある部署と言えますね。
【 技術科・機関部門 】
（いくつものメーターが付いた制御板。無数の数字を見ながらレバーの位置を調整していく隊員。カメラが引くと、大きなガラス越しに奥にぼんやり灯る赤い光）
機関部門は、宇宙船など、多くのエネルギーを必要とする装備や施設に使われる高出力エンジンを扱う部門です。
整備部門とは独立した、エンジンのみを扱う部門なのですね。
――― はい。通常車両等に使われるエンジンまでは整備部門が担当しますが、核融合エンジンは機関部門の担当となります。
どのような違いがあるのでしょうか。
――― エンジンの構造から異なるのですが、核融合エンジンは高い出力を誇っています。また、稼動をはじめれば通常のエンジンと違い燃料を必要としないので、高機動を求めるバトルウイング等に搭載することによって、従来よりも長時間の運用が可能となります。
では、なぜすべてのエンジンを切り替えないのでしょうか？
――― 生産コストとの兼ね合いです。エンジン一基を生産するための費用が、１８倍となります。また、使用時の調整にも専門の機関士を必要とします。
核融合は、いまだ慎重な運用を必要とされているエネルギーであるわけですね。
【 技術科・造船部門 】
（三次元モニターを挟み、会話している隊員たち。一人が手元のキーボードを操作すると、投影された砲台の設計図に新たな線が加わる）
造船部門は、各種兵器や軍用艦の建造、開発を担当する部門です。
基地や宇宙ステーションなど、施設の建造・改築等も行ないます。
――― 宇宙軍で唯一、開発担当の部署であるのが、こちらの造船部門です。
軍艦だけでなく、装備の開発も手がけているのですね。
――― 装備、施設のほか、すべての機器の開発を行ないます。こちらの技術により開発された新型のバトルウイングは、昨年からすでにいくつかの部隊に配備されて、効果を上げております。
開発と製造のすべてを担当するとなると、そうとうな規模になると思われますが。
――― 機密に関わる部分以外では、民間企業への発注も行なわれます。特に基地建設の場合は、専門の建設業者の協力は不可欠となります。
画期的な新兵器の開発などは行なわれているのでしょうか？
――― 基本的には、現場からの要望を取り入れ、現行の装備を改良していくことになります。もちろん、その過程において新しい理論が生み出されることもあるようです。
人類の科学進歩に大いに貢献する部門といえますね。
【 技術科・衛生部門 】
（定期健診の様子。手早く診察していく白衣の隊員。モニターに表示されたレントゲン写真を示し、説明をしている）
衛生部門は、隊員たちの健康管理を行なう部門です。
怪我や病気の治療・予防のほか、栄養管理や清掃などを担当します。
軍医や看護兵が、この部門となるわけですね。
――― はい。衛生兵には、ライトブルーのドクターコートが支給されます。腰丈のスタンドカラーで、左胸に所属の刺繍がされ、その上に階級章をつけます。軍医の場合、その上から白衣を着ることもあります。
栄養管理、ということは、調理も行なうのでしょうか？
――― 管理栄養士の設計する献立に沿って調理をする専門の隊員がおります。水の確保も重要な任務です。その他にも清掃や洗濯、入浴等の、部隊を衛生的に保つためのすべての業務を担当しています。
隊員たちが健康で人間的な生活を送るために、無くてはならない存在というわけですね。
（技術科徽章をバックに、いくつもの映像がオーバーラップしていく）
宇宙軍・技術科の業務はいかがでしたでしょうか。
多岐にわたる技術のすべては隊員たちの命を守るため、そしてそれは銀河連邦の市民である、みなさんを守ることへと繋がって行くのです。
製作・監修 銀河連邦宇宙軍広報
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