星のとびら 第７話
「Ｔｉｍｅ Ｗａｉｔｓ Ｆｏｒ Ｎｏ Ｏｎｅ 〜 到達 〜」
一
サラ・ヌイの技術者であるハリール・ディウミアスは、調査隊の要請に従い、メインブレインであるバアルジェナムの限定されていた機能を開放した。
だが、本来のブレインと比べれば、まだまだ能力は低いらしい。
それでもバルに扱える事柄はいくつか増え、その結果、船内に重力が発生した。
停船中に限られてはいたが、足もとが安定することは多くの隊員たちから歓迎された。
ずいぶんと、船内の雰囲気が変わったな。
ケイオス・キル・フェイトは、データの身体をホログラムで実体化させ、どこへ行くともなく歩きながら、ふと思った。
もともと、任務の危険度のわりには深刻さなど欠片もない調査隊ではあったが、さすがに軍の人間が半数以上を占めるだけあって、それなりに落ち着いた空気は備わっていた。
「それが今や、保育所だよ。どこで何を間違えたんだか・・・」
ケイオスの視線の先で、数名のサラ・ヌイの子供たちがにぎやかな笑い声とともに走り抜けていく。居住区画に限り、子供たちは自由に過ごすことを許されていた。
下は３才から上は１０才まで、総勢６８名。それだけの子供が３００人程度の団体に加わったら、雰囲気も変わろうというものだ。
「平和だねぇ・・・」
「いいことじゃないか」
思わず呟いたケイオスの独り言に、背後からこたえが返る。首だけで振り向くと、センリ・チサトが走る子供たちを眺めていた。
「コールドスリープから起きてからこっち、彼らはずっとおびえてたんだ。笑えるようになったなら、そのほうがいいだろう」
「そりゃ、ね。僕だって悪いなんて思ってないよ」
視線を前に戻すと、チサトが隣に並ぶのを感じた。
「サラ・ヌイはもう目の前らしい。この状態も長くは続かないさ」
「あ、やっぱり行く気なんだ。サラ・ヌイ」
「行かなけりゃ、あのハリールとかいう責任者は納得しないだろう。・・・お前は反対なのか？」
「別に、どっちでもいい。みんなが行くって言うなら、行けばいいし」
チサトの問いに、ケイオスは肩をすくめて見せた。
「なんだ、異星の技術に興味を持っていたんじゃなかったか」
「まあね。異星の技術というか、人格を持つブレインは興味深いよ。でもねぇ」
ケイオスは気だるげなため息をついた。
「一世一代の大勝負の後のせいか、なんだか気が抜けちゃってさ。何もする気力が起きないんだよね」
「なるほど。確かに、死線をくぐりぬけたあとは、高揚感が過ぎると虚脱感に見舞われるな」
「でしょ？ そんなわけで、僕は今、自主休暇中」
言葉と共に、ぽん、と軍服だったホログラムを私服に変えてみせる。その意外な遊び心に、チサトは小さく笑った。
「あ、チサトー！」
そんな二人を見つけ、通路の向こうから大きな声で呼びかけてきたのは、サラ・ヌイの少女、カーヤ・ナヒタだ。１０名弱の子供たちを連れ、ぶんぶんと手を振りながら、軽い足取りで駆け寄ってくる。
「コンニチハ」
まだぎこちない連邦公用語で挨拶をすると、照れたように笑う。そして、ケイオスの顔を認めてパッと顔を輝かせた。
〈あ、ホログラムの人！ この間はバルを助けてくれてありがとう！〉
満面の笑みを向けられて、ケイオスは戸惑ったように視線をそらした。
「感謝されたくてやったことじゃないよ。僕にとっては、他人事じゃなかっただけで・・・」
〈どんな理由でもいいの。バルを助けてもらえて嬉しかったから。本当にありがとうね〉
カーヤは屈託のない笑みを浮かべてケイオスの肩を叩こうとしたが、ホログラムのケイオスの身体は当然すり抜けてしまう。
〈・・・あれ、触れない・・・そっか。ホロだもんね。ねぇ、どうやって動かしてるの？〉
「カーヤ！」
興味津々の様子で身を乗り出したカーヤに、別の通路から現れた少年が怒鳴った。
顔だけ見れば瓜二つの、カーヤの双子の弟であるイーサー・ナヒタは、所在なげに立つ子供たちを指してカーヤにつめ寄った。
〈こいつら健康診断に連れてくんじゃなかったのかよ。面倒見るべきヤツをほったらかして、なにしてんだ〉
〈ちょ、ちょっとイーサー、痛い、痛いってば！〉
しまった、と言いたげに首をすくめたカーヤの腕を取り、乱暴に引っ張る。見かねたチサトが、あいだに割って入った。
「事情はあるのかもしれんが、力ずくってのはスマートじゃないな」
「うるさい。侵略者のクセに」
「その主張は受け入れられないな。オレたちが、お前たちの誰かに危害を加えたりしたのか？」
〈そうよ、イーサー。助けてもらったんじゃない、あたしたち。そんな態度でいたら、サラ・ヌイ人は恩知らずだって思われちゃうわ〉
カーヤの正論に、イーサーはぐっと言葉に詰まった。
「・・・わかったよ。カーヤがそこまで言うなら、こいつら認めてやるよ」
ぎりぎりと音がしそうなほど奥歯をかみ締め、イーサーはしぼり出すように言った。キッとチサトを睨みつける。
「ただし、ぼくを負かしたら、だ！ 勝負してもらうぞ。イヤだなんて言わせないからな！」
叫ぶイーサーの後ろで、カーヤがすまなそうに顔の前で両手を合わせている。
――― ま、子供が元気なのはいいことだ。
チサトは苦笑した。
二
イーサーの叩きつけた挑戦状は、瞬く間に船内に広まった。「ミニバイクのレースで誰か１人でも勝てば、イーサーは今後はむやみに反発せずおとなしくする」という条件だという。
バトルウイングのハンガーでも、その話題で盛り上がっていた。
「サラ・ヌイのチビがバイクレースするんだってよ」
「わざわざコース作ってやるなんて、隊長も人がいいっていうか、ノリがいいっていうか」
ここしばらく戦闘での出撃はなかったため、整備ものんびりとしたもので、整備士たちは雑談交じりに手を動かしていた。
「バイクレース？」
自機調整中だったパイロットのレイン・カスールは、趣味であるバイクの話題に興味をそそられ、話の輪に加わった。
「そんなものがあるのか？」
「ああ。使ってない倉庫と通路をコースに仕立てて、あの威勢のいいサラ・ヌイのガキと勝負するんだと。ま、バイクったって、競技用のミニバイクだけどな」
「機関部のエーリングが出るらしいぜ」
「あの出っ腹で、ミニバイクのハンドルに手が届くのか？」
「あはは、見ものだな、そりゃ」
整備士たちは、楽しげに笑いあう。
「軍曹、もし出るんならマシンのセッティングは任せときな。指定どおり完璧に仕上げてやるよ」
頼もしい申し出に、レインの心はレース参加に大きく傾いた。
「ここのところ船内の見回りや張り込みばかりで窮屈だったからな。レースで思いっきり飛ばすのも悪くない、か・・・」
「のんきな人たちですねぇ」
呆れたような声が降ってきて、レインと整備士たちはそろって上を見上げた。
「おかしな装置に通せんぼを食らっているというのに、子供とバイクのレースとは、いやはや」
作業用の足場の上で大げさに首を振っているのは、ニージャ・ドラクロアだった。パイロットスーツを着込み、小脇にヘルメットを抱えたその姿に、レインはいぶかしげな顔になる。
「出撃か？ 定時巡回はまだだろう」
「ゲートが通れなくては、話になりませんからね。ゲートを封鎖している装置の攻略法を探すために、まずはデータを集めに現物の側まで行ってこようと思いまして」
「ずいぶん積極的だな」
「当然でしょう。ここまで来て、引き返すなんて選択肢はありえませんよ」
「まあな。あいつらも、行って状況を確かめないことには、これからどうするかも決められないだろう。行かずに後悔するくらいなら、行って嘆くほうがまし、か」
「そういうことです。では、わたしくはこれで」
もちろん隊長の許可は取ってありますよ、と付け加えてニージャはコクピットへと滑り込んだ。
装置が〈フォルトゥーナ〉と同じ時代のものであれば、ブレインの中に合言葉がある可能性はあるが、それ以降に作られたものだとしたら探すだけ無駄だ。まずは年代の確認が必要と考えたニージャは、測定用の機器を積み込んだ愛機・シャイニングで装置へと向かう。
装置は正三角形のパネルをつないだ正八面体で、ゲートポイントを完全に囲む形で設置されていた。パスワードを受信すると立体が展開されていくのだろう。
「なぁに、これ。ずいぶんくたびれてるわねぇ」
モニターに映る装置を眺め、ニージャはつまらなそうに鼻を鳴らした。
もとは輝いていたのだろうパネルは鈍くくすみ、宇宙線に長い間さらされてきたことをうかがわせる。立体の頂点の一つに設置された装置の本体らしきものも、細かいチリによって傷つき、手入れがされているようには見えなかった。バトルウイングに積んだ年代測定装置の数値は、８００〜１０００年前と出ていたが、どのくらいのあいだ放置されてきたのかまではわからない。
ニージャはマニピュレーターをのばし、装置に接続した。相変わらず通信波は発進され続けているというのに、それを管理するプログラムは更新された気配すらなかった。
「変ねぇ・・・使ってないのかしら？」
ニージャはフォルトゥーナに通信を入れた。
「ねぇ、隊長。これってパスワードが当たっても、まともに動くかどうか怪しいわよ。吹き飛ばしちゃったほうが早くなぁい？」
『あー、まぁそうかもしれんが、壊すのは最後の手段だな。とりあえず待機しててくれ』
「わかったわ」
のんびりとした声で応答したエイドリアン・クレメンツに、ニージャは不服そうに言った。
「でもアタシ、待ってるだけとか、地味な仕事って苦手なのよねぇ。あんまり待たされるようなら、派手にぶちかましちゃうかもしれないわよ」
『・・・お前さんの理性ができるだけ保つことを祈ってるよ』
少しだけ諦めたような口調で、エイドリアンは答えた。
三
シュン、と音を立てて医務室のドアが開いた。入ってきたのはマリーカ・フォン・リヒターだ。
「あの、ハリール様、隊長様がブリッジまで来ていただきたいと・・・」
手元のファイルを見ていた目を上げながら言った言葉が、不自然に途切れる。健康診断を受けている最中だったハリールは、上半身になにも身につけていない状態でドアのほうを振り向いた。
「しっ、失礼しました、申し訳ございません・・・！」
マリーカはあたふたと頭を下げ、医務室を飛び出す。
一瞬だけ垣間見たハリールの背には、長く刻まれた傷があった。カーヤたち双子ほどではないが色味の濃い肌に白く走る一条の傷跡は、マリーカに鮮烈な印象を残した。
（あれは、剣の傷・・・それもかなり深い・・・）
動悸の速い胸を押さえ、深呼吸をする。背後でドアが開き、ハリールが姿を見せた。当初はかたくなだったハリールも、子供たちが本当に自由を与えられ、のびのびと過ごしている様子を見て、態度を軟化させはじめていた。
〈すまない。ブリッジだったな。すぐに行く〉
「あ・・・」
きびきびと歩き出すハリールに、マリーカは慌てて後を追った。
「あの・・・ハリール様・・・その、お背中は・・・」
〈ああ、これか〉
ハリールは顔をしかめ、肩越しに背に手をやった。
〈以前、戦闘になったときに負ったものだ。たいした傷じゃない〉
目にしたのはほんの瞬きの間だったが、マリーカはその傷が治ってはいたが古くもないことに気づいていた。戦闘があったのは、おそらく船に乗る直前。その背に武器を振り下ろしたのは、ドゥイエンの戦闘員なのだろう。マリーカには、ハリールの抱いていた深い敵意の理由の一つが垣間見えたように思えた。
ブリッジでは、エイドリアンが待っていた。相談を受けたハリールは、怪訝そうな顔になった。
〈ゲートを封鎖する装置？〉
「ああ。心当たりはないか？」
〈いや〉
ハリールは即座にかぶりを振った。
〈私は知らない。私たちが発ったあとに作られたものだろう〉
「ってことは、合言葉とやらはブレインの中にも無いわけだな？」
〈おそらくは。ただ、本来のブレインであるラトゥについては、私はすべてを知っているわけではないからな。博士が母星との通信で入手して保管していた可能性は無いとは言い切れない〉
難しい顔のハリールに、エイドリアンは困ったように頭をかいた。
「探してみないとわからん、つーことか」
ゲートの付近で大規模な爆発等が起きると、時空の歪曲が変化し、ゲートとして機能しなくなる恐れが高いとのゲート航法士からの指摘があり、力技での突破は難しいことが判明していた。
『ここってサラ・ヌイに通じる最後のゲートなんでしょ？』
待機命令を受けてゲート周辺を周回中のニージャが通信で会話に加わった。
『だったら「ただいま」でいいんじゃないの？ もちろんサラ・ヌイ語でよ』
「ありがちだが、可能性はあるか」
腕組みをして、エイドリアンは通信士に指示を出した。
ハリールとバルによって、船籍番号と船の本来の名前、出航時の船長の名前を添えた帰還信号がサラ・ヌイのパターンで送信される。
モニタースクリーンの中で、装置がゆっくりと動き始めた。パネルがはがれ、開いていく。
「やったか・・・？！」
ひどくゆっくりとした動きは、半分ほどで止まってしまった。駆動部分が劣化しているためか、それ以上は開かないようだった。
『これはアタシに吹っ飛ばせって言ってるのね！』
「おいおい、乱暴にするとゲートそのものがやばいんだぞ」
楽しげに言ってバトルウイングを旋回させるニージャに、エイドリアンが釘を刺す。
『わかってるわよ、軽く突っついてあ・げ・る・だ・け』
ちょうつがい部分に照準を合わせ、ニージャは引き金を引いた。
小さな火花を散らして、パネル同士を繋ぎとめていた留め金が壊れる。次々と正確な射撃が留め金を撃ちぬき、正面に展開していたパネルは、ばらばらになって漂い始めた。
「ゲートの様子はどうだ？」
真剣な顔でゲートサーチャーを操作していたゲート航法士は、エイドリアンの問いに顔を上げた。
「数値は安定しています。跳躍可能です」
「・・・よし」
エイドリアンは一つ頷くと、ニージャに通信を送った。
「問題は解決だ。ごくろーさん。破片の回収には別班を向かわせる。戻ってきていいぞ」
『了解〜。今回の功労者はアタシで決まりね』
「まあそうだな。あとで一杯おごってやるよ」
『あら、楽しみだわ。じゃああとでね、隊長さん』
通信を切り、ニージャは華麗に宙返りを決めてから船に戻った。
四
イーサーの発案したレースのために、普段は閉め切られたまま使われていなかった大倉庫の一つが開け放たれた。スタートとゴールを兼ねるこの倉庫から通路を使っての周回コースが設定され、レース中はその区画への出入りが禁じられた。レースはそのコースを３周して行なわれる。
観戦も倉庫内に限定されたが、非番の隊員たちとサラ・ヌイの子供たちが続々と集まっていた。
『ではみなさん、よろしいですか〜。スタートから全員のゴールまで、席を立ったりしないで下さいね。応援はＯＫですが、物を投げたり選手の妨害は厳禁ですよ〜』
審判役を任されて張り切っているのはバルだ。ハリールたちとの和解が成立し、それ以後これといって問題の起きていない船内で、このレースはちょうど良い娯楽として歓迎ムードだった。
「あんたも出るのか」
さすがにレーシングスーツまでは用意できず、パイロットスーツを着たレインは、同じスーツを着たチサトの姿を目に留めて歩み寄った。
「成り行きでな。直接挑戦されたら、受けて立たない訳にもいかないだろう？」
どこか磊落な雰囲気を漂わせ、チサトはグローブをはめた手をぐっと握った。
２人を含め、挑戦者は７名だった。子供相手にしては集まったと言えるかもしれない。
「負けないからな」
敵意をみなぎらせたイーサーが、並んで立つレインとチサトを睨み上げる。トレーニングウエアにライディングギアを取り付けた即席のレース用ウエアを着た姿は、それなりに様になっていた。
『それでは、出場選手のみなさんはスタート地点へどうぞ〜』
バルのアナウンスを合図に、８台のマシンがスタートラインに並ぶ。
『レディー・・・ＧＯ！』
ブザーと共に、マシンは一斉にスタートした。
まず飛び出したのはイーサーだった。弾丸のように加速して倉庫から通路へ向かう直線を疾走する。
「なんて速さだ」
二番手につけたチサトは、内心で舌を巻いた。体重の軽い分、最高速度はあちらが上だろうとは思ってはいたが、予想以上の加速だ。
「だが、バイクはスピードだけじゃないぞ」
チサトは、前を行くイーサーの背を見ながら心の中で呟いた。
車よりも乗り手と一体化するのがバイクという乗り物だ。車体のバランスを自分自身で取る。そのためにはコーナリングで地面すれすれまで倒すことも珍しくないが、少し間違えれば転倒してクラッシュしてしまう。
また、今回は船内の通路をコースとして使っているため、どうしてもコーナーは直角になる。そして滑りやすい素材で出来た床面は、いつスリップダウンしてもおかしくない。しかもレーシングコースと違い、目の前が壁だ。速度を出せば出すほど、激突の危険は高まる。
「その恐怖を、お前はどこまで押さえられる・・・？」
操作性を犠牲に最高速度を上げたマシンを、自らの体重と、命を張るパイロットとしての体験から来る平常心でねじ伏せ、チサトはイーサーを追った。
チサトのすぐ後にぴったり付いたレインも、イーサーのスピードに目を見張りつつ、頭の片隅で冷静に計算をしていた。
「直線はゆずってやるさ」
初めから、勝負所はコーナーと決めている。的確なライン取りを行い、コーナーを抜けたときの加速のタイミングを見極めることで、直線でのビハインドは取り返せるとふんでいた。
みるみるうちに、最初のコーナーが近づく。イーサーはそのままのスピードでコーナーへと飛び込んだ。
「まさか？！」
ライバルたちの驚きの視線を気にもせず、イーサーはスピードを緩めず突っ込んでいく。しかしその速度を制御しきれるはずもなく、大きく外側へとラインが膨らんだ。
「まだまだ甘いな」
その隙を逃さず、チサトはぎりぎりまで車体を倒すハングオフでコーナーを最短距離でクリアし、イーサーとの差を詰めた。そのコーナリングを見てレインも負けじとコーナーをクリアし加速する。
１周目を終えて倉庫へと戻ってきたマシンに、歓声が上がる。まずイーサーが、そしてチサトとレインがすぐ後を追うように姿を見せる。後続はやや離され、早くも３人の対決の形になっていた。
その後も、ほぼ１周目と同じ展開が続いた。しかしコーナーごとに徐々に差は縮まり、２周目最後のコーナーで、ついにチサトがイーサーをかわしてトップに立った。
「く・・・っ」
動揺からか、顔をゆがめたイーサーの速度が落ちる。そこへ、すかさずレインが並んだ。
「ちっくしょう・・・負けてたまるかよ・・・！」
イーサーはチサトの背を睨みつけ、必死の形相で追いすがった。その視線は前しか見ていない。
やがて、コース最大の難所である、クランク状に曲がり角の続く場所へさしかかった。角の向こうへ消えたチサトを捉えようとあせったイーサーが、インにいたレインのほうへとよろめく。
完全に視野の狭まったイーサーは、接触しかけていることに気付いていない。コーナーの続くこの場所では、かわすだけの余裕はなかった。
「・・・っ」
レインは、とっさの判断でスロットルを大きく戻した。急激なスピードの変化にバランスを崩してスピンしかける車体を、巧みにハンドルをさばいて立て直すと、イーサーはすでにコーナーの向こうへ消えていた。
「やれやれ・・・とんだ暴れ馬だな」
レインは改めてスピードを上げ、コースを走り抜けた。
「で、どっちが勝った？」
『チサトさんですよ〜。もう、タッチの差でした。すごいきわどかったです〜。ビデオ撮ってありますよ、見ます？』
ゴールしたレインの問いに、バルが興奮した様子で答える。
「そうか・・・やったな」
汗をぬぐっていたチサトのそばへ歩み寄ると、レインはチサトの胸をこぶしでトンと叩いた。
「お前も惜しかったな。接触がなければ、あのコーナーでかわせてただろう」
「もう少し早く前に出たかったんだが。あいつのトップスピードが予想以上だった。あの速度が保てるってのは、いくら体重が軽いからってアリか？」
今回のレースで使われた競技用ミニバイクは、扱いが簡単な代わりに、スピードを保つのは難しく作られている。少しスピードを上げるだけでエネルギーを大量に消費するのだ。そのため、完走するためのペース配分も、駆け引きの一つとされている。終始ほぼフルスロットルで飛ばしていたイーサーが、エネルギー切れを起こさなかったのは、かなり異常と言えた。
「あれはオレも驚いた。あいつ、とんでもないセッティングしてたんだよ。あとで見せてもらうといい」
いつになく口数の増えた悔しげなレインに、チサトは面白そうに笑った。
〈ほら、イーサー。約束でしょ〉
〈わかってるよ〉
そこへ、イーサーがカーヤに引きずられるようにして現れた。
「ぼくの負けだ。約束どおり、もうおまえらのこと侵略者とか言わない」
謝罪にしてはぶっきらぼうで、顔を背けたままのイーサーに、カーヤが眉を寄せて腕のあたりをつつく。
〈・・・それだけ？〉
〈悪いかよ。約束したのはそれだけだろ〉
〈だって、ずっと失礼なこと言ってたくせに、それだけ？〉
〈うるさいな。しつこいぞ〉
〈なぁに、その言い方。だいたいイーサーはいつも・・・〉
目の前で姉弟喧嘩が始まりそうになり、チサトはなだめるようにカーヤの肩に手を置いた。
「いきなりは変われないだろう。おいおい、慣れてくれればいい」
〈チサトは甘いわ。激甘ね〉
カーヤは不満そうにくちびるを尖らせた。
『みなさ〜ん、これからレースの打ち上げがあるそうですよ〜。第一甲板の大食堂へどうぞ〜。レース参加者も、観戦者の方も、まとめて楽しんじゃいましょう！』
そこへのんきなバルの声が届く。
サラ・ヌイの子供たちとの親睦会を兼ね、打ち上げは盛大に行なわれた。
１人の少年のわがままから始まったレースは、こうして船内すべてを巻き込む一大イベントとして幕を閉じた。
後日、イーサーがレインの元を訪れた。
「あの時は気付かなかったけど、バルに記録を見せてもらった。お前がコースを譲ってくんなかったら、大変なことになってたよな。・・・一応、お礼言っとく」
まだまだ打ち解けたとは言いがたい固い口調ではあったが、少年なりに歩み寄ろうとしている努力は感じられた。
五
隊員へ銃を向けたということへの謹慎の意味も含め、ハリールの監視はまだ解かれていなかった。しかし、もともと学者肌で身体を動かすことに執着のない性格だったこともあり、与えられた自室で淡々と連邦の歴史書などを読んで過ごしていた。
『ちょっといいかな？』
ある日、休止状態だったハリールの個室の端末がひとりでに立ち上がり、ケイオスの声がした。
〈なんだろうか〉
『用ってほどでもないんだけど、一度ゆっくり話をしてみたかったんだ』
〈かまわないが〉
読んでいた電子書籍を片付け、ハリールが端末に向き直る。すると端末のモニターにケイオスの姿が映った。
「バルは君が作ったって、本当？」
〈ああ〉
「珍しいよね。あんな人間臭い対応するブレインって。それとも、サラ・ヌイのブレインはみんなああなの？」
〈そんなことはない〉
ハリールは生真面目に首を振った。
〈たいていのブレインは連邦と同じで、バトラーのように無機質で無個性だ。バルは、ブレインに人の思考を理解させることで作業効率が上がらないかと考えて私が設計した、試作プログラムの一つだ〉
「ふぅん・・・」
ケイオスの相槌は、話を持ちかけたわりには気のないものだった。それに気付き、ハリールは少しムッとした顔になる。
〈言いたいことがあるなら、はっきり言えばいい。バルはまだまだ試作の段階のプログラムだ。ブレインとしての機能が不完全で当たり前だろう〉
「あ、ごめん、君の能力を疑ったとか、そういうことじゃないんだ」
ケイオスは慌てて画面の中で手を振った。それから少し言いよどむ。
「あ・・・と、その、僕のことって誰かから聞いてるかな」
〈ネットワークを根城にして、姿を見せるときはいつもホログラムかモニター越しの、謎の多い少年、程度だろうか〉
「あはは・・・間違いじゃないけどさ」
ハリールの口から語られる怪しげな人物像は、ワークスの構成員としては正しい姿のようにも思えてケイオスは苦笑した。
「ホログラムやモニター越しなのは、それが僕の本体でもあるからなんだ。僕は肉体を捨て、コンピュータのデータとして存在するものだから」
〈データとして・・・？！〉
愕然とした表情を見せるハリールに頷いてみせる。
「そういう意味で、僕はとてもバルに近い存在とも言える。だからかな、君がバルに出した命令を、どうしても許せなかった」
呟くようなケイオスの言葉に、ハリールは真面目な顔になった。
「人格を備えたブレインであるバルと、人格をデータ化した僕・・・いったいどこが違う？ 僕には、彼をただのプログラムとして見ることはできなかった。生きていて欲しかったんだ」
うつむいていたケイオスは、そこで顔を上げた。
「だって僕は生きたいから。終わりの日へのカウントダウンを聞きながら、それでも僕は、生き続けたいと願う気持ちを失えない。・・・だから、君に頼みがあるんだ」
〈私に？〉
「バルを作るときに、その育てた人格を固定するのは、どんな技術を使った？ 教えて欲しい。そして僕の命を繋ぎとめるために力を貸してほしいんだ」
データ化の処理を受けると、残りの寿命は長くて３０年と言われている。それ以上は、どうしても人格を保存できない。ケイオスは１０才で処置を受け、データとしてすでに６年を過ごしていた。
〈む・・・〉
ハリールはケイオスの頼みに深く考え込んだ。
〈興味深い・・・が、難しいな。バルは私が１から組み立てたもので、人格の構成も細かい作業の積み重ねだ。だが、すでにあるデータを組みなおすとなると、どこにどんな歪みが出るか、私にもわからない。少しでもずれれば、人格そのものが危うくなるだろう・・・すまないが〉
「そう・・・」
落胆を隠さず、ケイオスはがっくりと肩を落とした。
その時、部屋の扉がノックされた。ハリールが答えると、顔を見せたのはマリーカだった。志願してサラ・ヌイ人たちの世話役を引き受けたマリーカは、時間を作ってはハリールの部屋を訪れている。
「あ、ケイオス様もいらしたのですか」
モニターのケイオスに気付いてぺこりと頭を下げる。手にした小さなバスケットには、可愛らしいラッピングが施されたクッキーが入っていた。
「ハリール様・・・その、いつものお礼にクッキーを焼いてお持ちしましたの。お口にあうとよろしいのですけれど」
「・・・いつもの？」
バスケットを差し出しつつのマリーカの台詞に、ケイオスが首をかしげる。
「あの、わたくし、ハリール様にサラ・ヌイ語を教えていただいておりますの。わたくしたちを知っていただくのも大切ですけれど、サラ・ヌイの文化や歴史を理解することも必要だと思いまして。それに、サラ・ヌイに着いた時に、言葉が話せればたくさんの方たちとお友達になれますでしょう？」
「・・・てことは、マリーカはサラ・ヌイに行くことに賛成なんだ？」
「もちろんです」
マリーカは夢見るように微笑んだ。
「たとえ１０００年経っていても、ふるさとはふるさとですわ。サラ・ヌイのみなさんを故郷に帰して差し上げたいのです。それに、わたくしたちにとっても、親しい隣人が増えるのは喜ばしいことですもの」
マリーカの言葉に、ハリールの表情がわずかに曇る。だが、二人ともそれに気付かなかった。そのまましばらく、三人での雑談が続いた。
〈？ この味は・・・〉
話しながら、マリーカの差し入れを口にしたハリールが、何かに気付いたように手にしたクッキーをまじまじと見つめた。
「あの・・・お口に合いませんでしたか」
〈いや、そうではなく・・・この味、食料のコンテナにあったものと同じだ。もしや、あれも貴方が？〉
「は、はい・・・」
マリーカは恥ずかしげに頬を染めた。
「みなさんに少しでも心安らいでいただけたらと思いまして・・・素人仕事でお恥ずかしいですけれど」
〈そんなことはない。子供らはみな、毎日あれを楽しみにしていた〉
「・・・嬉しいです」
はにかむマリーカは純真な子供のように見え、ハリールは以前から抱いていた疑問なのだが、と前置きして言った。
〈連邦の軍とは、貴方のような少女まで所属しているものなのか？〉
突然の問いに戸惑うマリーカの代わりに答えたのはケイオスだった。
「それって、なにか誤解してないかな。君とマリーカは、そう年は離れていないと思うよ」
〈なに？〉
驚くハリールに、今度はマリーカがおずおずと口を開く。
「わたくし、よく幼く見られるのですけれど、もう１９になります」
〈・・・私はてっきり、カーヤたちと同じくらいだとばかり・・・〉
「君は？ 聞いたことなかったけど、ハタチくらい？」
〈私は２４だ〉
「へぇ！ 君も若く見えるほうなんだね。僕もこう見えて１６才なんだ」
ここは若作りの集まりだね、と言ってケイオスが笑うと、ハリールは渋い顔になった。
〈女性ならばともかく、私はあまり嬉しくはないな。・・・それにしても、本当に正規の軍人だったのか、貴方は〉
「はい。といっても、学校を出たばかりの新米ですけれど」
まだ半信半疑といった様子のハリールに、マリーカは肩をすぼめた。
「マリーカ、機甲に乗せてあげたら？ 少しは実感してもらえるかもしれないよ」
ケイオスが提案する。マリーカはパッと表情を明るくした。
「そうですわね。ハリール様、機甲はわたくしの大好きなものなのです。よろしければご覧になりませんか？」
マリーカが誘うと、ハリールは少し迷うそぶりを見せたが、頷いた。
〈迷惑でなければ〉
「じゃあ僕はこの辺で退散するとしようか。ごゆっくり」
ケイオスは目を細めて笑うと、手を振ってモニターから消えた。
「こちらです、ハリール様」
エイドリアンに許可を取り、マリーカはハリールをバトルアームの格納庫へと案内した。
林立する巨大な鋼鉄の人型兵器に息をのむハリールを、コクピットに納まったマリーカが呼ぶ。
「よっしゃ、いいぜ。ほら来いよ！」
これまでとはがらりと違う荒っぽい口調に驚いたハリールは、目の前に差し出されたバトルアームの手のひらをただ呆然と見ていた。
「なにボーッとしてんだ！ 乗れよ！」
〈わ・・・〉
マリーカは無骨な機甲の手で器用にハリールをすくいあげた。
「アンタのイメージ、壊しちまったか？」
肩の高さまで持ち上げ、ハリールと目を合わせたマリーカは苦笑しながら頭をかいた。
「でも、これもアタシだ。アンタには見といて欲しかったんだよ、アタシの嘘偽りない姿を、さ。自分が隠し事しといて、アンタに心を開いて欲しいなんて、都合が良すぎるもんな。・・・幻滅したか？」
〈あ・・・いや〉
一時の驚きが去ると、ハリールは冷静さを取り戻していた。
〈驚きはしたが、納得もした。貴方がこのような兵器を扱うのは不思議に思っていたが、こういうことだったのか〉
「そういうこった。アタシは、けっこういいトコのお嬢でな、厳しいしつけのおかげで言いたいことも言えなくなってたときに機甲と出会って・・・アタシは変わった。この力を使いこなして、立派に任務をこなしてみせるぜ」
少し遠い目をしたマリーカは、ふと思いついたようにハリールを見た。
「そうだ！ アンタにこいつの操縦を教えてやるよ。そうすりゃ、サラ・ヌイに帰った後も、子供らに危険が迫ったときに守ってやれるだろ。どうだ？」
〈遠慮しておこう〉
乗り気のマリーカに、ハリールは真顔で首を振った。
〈私は身体を使うことには向いていない〉
「そうか？ まぁ無理強いはしねーよ。あ、じゃあ、なんかあったらアタシを呼べよ。アンタも子供らもまとめて守ってやっから」
〈それは頼もしいな〉
ハリールが、わずかに口元をほころばせる。
「お・・・おうっ、任せとけ」
初めて見せた笑顔と呼べる表情に思わず見とれかけ、マリーカはあわてて胸を叩いて見せた。
（な、なんなんだよ、なんでアタシ、こんなにドキドキしてんだ？！）
不思議そうに見てくるハリールから顔をそむけるようにして、マリーカは熱くなった頬を冷ますように手であおいだ。
六
最後のゲートを抜ければ、サラ・ヌイの母星までは一日足らずの距離だった。だが、近付いても何の反応もない。
「やけに静かだな」
エイドリアンは、船は軌道上に待機させ、降下艇で数名が先行することを決めた。
そうしてハリールの指定した地点へ着陸すると、そこはすでに廃墟だった。周りを見回しても、生き物の気配すらない。大気組成は呼吸に支障ないものだったが、恒星が遠いためか薄暗く、寒い。
「どういうことだ・・・？」
警戒して様子をうかがうエイドリアンたちを置いて、ハリールがふらふらと歩き出す。
「ハリール様！ 危険です！」
降下艇からバトルアームを降ろしていたマリーカがそれに気付き、後を追う。
ハリールは、ある建物の残骸の前で立ち止まった。崩れかけたその建物を見上げ、低く呟く。
〈わかっていた・・・〉
「ハリール様？」
〈わかっていたのだ、１０００年の時が流れた今・・・我らの願いが叶うことなどないのだと！〉
叩きつけるように叫ぶと、ぐったりとうなだれる。
「ハリール様・・・」
〈一人に、させてくれ。少しでいい・・・頼む〉
まだ何か言いたげなマリーカの肩を、誰かがつかむ。振り向くとエイドリアンが黙って首を振っていた。
マリーカはためらうように何度も何度も振り返りながらその場を離れた。
〈すみません、博士・・・〉
最後に聞こえたのは、ハリールの嗚咽交じりの苦しげな声だった。
「戦争・・・じゃないわね」
偵察要員として惑星上に降りたニージャは、バトルウイングで地表の様子を調べながらひとりごちた。
「単に打ち捨てられて朽ちたって感じ。空は暗いし、もう、雰囲気ありすぎよ」
コクピットのモニターに映るのは、亀裂が入った道路や崩れた建物ばかりで、人どころか植物すら見かけない。どんな荒廃した土地でも見かけるような生命力旺盛な虫の姿さえ無く、視界で動くものといったら、風にあおられて舞い上がる砂埃くらいのもの。いくら廃墟にしても異様な光景だった。
「まさか惑星規模の疫病とかじゃないでしょうね。ああ、ヤダヤダ」
嫌な想像にぶるりと震え、他のところを偵察するために飛び去った。
ニージャ同様に地上偵察に出たチサトは、他に比べて比較的損傷の少ない建物を発見していた。
エントランスのプレートは腐食が激しかったが、なんとか文字を解読すると、そこはサラ・ヌイの宇宙開発に関わる建物だと判明した。
「フォルトゥーナの出発点かもしれないということか」
「中、入ってみないかい？」
チサトの個人端末からケイオスが声をかける。
「もしかしたら、何か情報が残ってるかも」
「・・・そうだな」
少し考え、チサトは頷いて建物の中へと慎重に足を踏み入れた。
その頃、イーサーはバルトウイングのハンガーにいた。メカニックに興味があるらしく、ちょくちょく顔を出しているため、整備士たちともすでに顔見知りだ。たまたま見つけたレインが声をかけた。
「今日も来たのか。てっきり隊長たちと下に降りたもんだと思ってたが」
「そんなの、行くわけないだろ」
イーサーは馬鹿にしたように答えた。
「ハリールはむきになってたけど、もう誰もいるはずないんだし」
「どういうことだ？」
レインの問いに、イーサーはきょとんとしてから納得顔になった。
「ハリール、言ってなかったんだな。この船はもともと、ぼくらが住めなくなったサラ・ヌイから移住するのに使ったんだぜ」
「なんだと・・・？」
しばらくすると、ハリールは降下艇へ戻ってきた。少し目が赤い。
「これはどういうことか、お前はわかってんだろ？」
エイドリアンが遠慮がちに説明を求める。ハリールは深呼吸をして、顔を上げた。
〈私が故意に語らなかったことがある。船の本来の目的と、当時のサラ・ヌイ本星の現状についてだ〉
約１０００年前、サラ・ヌイは資源枯渇の危機にあった。他の惑星への移住計画が持ち上がり、フォルトゥーナはその一環として出航した移民船だった。当てがあるわけでもなく、ただひたすら居住可能惑星を探す旅路だ。
運よく、フォルトゥーナは３年ほどの航海の末、とある惑星にたどり着いた。乗組員たちは大地を開墾し、新しい生活を始めた。
だが、その暮らしは長くは続かなかった。ドゥイエンの侵攻によって容赦のない攻撃を受けた人々は、せめて子供たちだけでも逃がそうと、フォルトゥーナに乗せてサラ・ヌイへ向けて送り出した。
〈その時はまだ、サラ・ヌイにも人は残っていた。１０数年をかける計画の、私たちは最初の移民団だったからだ。サラ・ヌイへはゲートを使い、最短距離を通れば１年かからずに帰れるはずだった〉
「それが、トラブルでレピトに墜落し、気付けば１０００年後・・・か」
エイドリアンは難しげな顔でうなった。
〈一縷の望みを託して来てみたが、やはりこの星は捨てられていた。我々にはもう、行くところはない・・・〉
一同の間に重苦しい沈黙がおりる。その時、降下艇の通信機が音を発した。
『応答願う、こちら飛行小隊センリ曹長。宇宙開発関連施設で、データバンクらしきものを発見した。指示をお願いする』
最初に動いたのはエイドリアンだった。
「んなもん、好きに調べりゃいーだろーが」
『もうボロボロなんだよ。調べるなら船の機材をこっちに送らないと』
「したら必要な機材をリストアップしとけ。持ってこさせっから」
少し興奮した様子のケイオスの声に、エイドリアンは指示を出してからハリールを振り返った。
「んじゃ、いったん船に戻るか。お前とチビどもの今後については、なにも今ここで決めなきゃいけない話でもねーだろ」
ハリールは力なく頷いた。
発見されたデータバンクは、ほとんどのデータが消去されていた。船の電脳調律士たちとハリール、２つのブレインが協力して復元を試みたが、取り出せたのは惑星なのかゲートなのかもわからない、いくつかの断片的な座標だけだった。
ハリールは押し黙って作業に没頭し、これからのことを考えることを放棄しているかのようだった。
子供たちの去就については、軍で引き受けてはどうかという案と移民としてどこかの惑星に送る案とで、船内でも意見が分かれていた。
船は目的地に到達した。連邦宇宙軍の任務はほぼ完了し、あとは帰還して報告書を提出すれば終わりだ。
だが、この旅の本当の終わりがどこにあるのか、まだ誰もわからなかった。
(to be continued・・・)
次回ＧＰ Ｓ１ 発見された座標を調べてみる
Ｓ２ 子供たちの未来を作る
Ｓ３ 司令部へ帰還する
Ｓ４ ○○（キャラ名）に関わる
◇アンケート◇
１．（ＰＣへ）調査団解散後、あなたはどうしたいですか？
２．本編終了後にやって欲しい企画などはありますか？
◇マスターより◇
こんにちは！ このたびはＭＬのトラブルでご心配おかけしました。
なんとか第７話のお届けです。いかがでしたでしょうか？
私の情報の出し方が下手なせいで、アクションがかけにくかったのではないかと思いますが、みなさんいろいろ考えてくださってありがたいことです。
えー・・・バイクレースについては、実際のものと比べて考察しようとか考えないように(笑)。
なるべく嘘ではないようにしたつもりではありますが、なにしろスクーターの免許すら持っていないド素人ですので、用語を調べるところから始まる付け焼刃。おかしなところもあると思いますが、そのあたりは脳内変換して読んでいただけたらと思います(^^;
ちなみにイーサーのセッティングは「最高速度４・操作性０・耐荷重２」。子供のクセになぜ耐荷重に２も割り振ったのかというと、スピードを保ちたいがために動力源であるエネルギーパックを複数搭載するためでした。
いろいろと難しかったですが、レース展開を考えるのは楽しかったです。
さて、次回はついに最終話。なのに話はとっちらかったままで、本当にすみません(汗)。ＧＰにはこだわらず、ＰＣのやりたいことをやってみて下さい。
余裕があれば後日談的なことも語ってみたいので、そのあたりはアンケートの一問目でお願いします。
今回は配信がずれ込んだので、〆切を当初の予定より長めに取りますね。
第８回アクション〆切は １２／２９（金） です。
年の瀬のあわただしい時期ではありますが、どうぞよろしくお願いします。それにあわせて、第８話の配信も、 １／２８（日）へとずらさせていただきます。ご了承下さいませ。
それでは、また第８話でお目にかかりましょう！
それでは、また第２話でお目にかかりましょう！
あかね 拝
◆◇ＮＰＣ一覧◇◆ 名前／性別／年齢／所属／職業
○エイドリアン・クレメンツ／男／３６／連邦宇宙軍／調査隊隊長兼船長
○バアルジェナム／−／−／サラ・ヌイ／発掘船〈フォルトゥーナ〉ブレイン
○ハリール・ディウミアス／男／２４／サラ・ヌイ／人工知性設計士
○イーサー・ナヒタ／男／１５／サラ・ヌイ／−
○カーヤ・ナヒタ／女／１５／サラ・ヌイ／−
◇◆参加者一覧(５０音順)◆◇ 名前／性別／年齢／所属／職業／参加者名
○ケイオス・キル・フェイト／男／１６／非登録市民／アンダーシーカー
○センリ・チサト／男／２８／連邦宇宙軍／バトルウイングパイロット
○ニージャ・ドラクロア／男／３８／連邦宇宙軍／バトルウイングパイロット
○マリーカ・フォン・リヒター／女／１９／連邦宇宙軍／機甲兵
○レイン・カスール／男／２１／連邦宇宙軍／バトルウイングパイロット
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